研究の目的
超高齢社会において歯科保健医療を効果的に提供するためには、歯科医療従事者による提供状況を可視化し、今後の対応策を検討する必要があり、また、国においては、「歯科医師の資質向上等に関する検討会」の中間報告書として、「歯科保健医療ビジョン」を提言したところであり、より効果的に関連施策を展開するために、歯科医師の勤務実態等を把握することが求められております。しかし、これまで歯科医師の勤務状況に関するデータは、報告事例が極めて少なく、十分なエビデンスが得られておりません。医師においては、勤務実態及び働き方の意向等に関する大規模調査研究が実施されており、継続的に安全・安心な歯科保健医療を国民へ供給するためには、医師と同形態の法構成となっている歯科医師の勤務実態等に関しても調査研究を実施する必要があります。
更に、口腔ケアによる誤嚥性肺炎の予防効果に関する諸研究にて示されるように、口腔の健康が全身の健康を保つ上で基礎的かつ重要な役割を示していることから、歯科保健医療サービスがあらゆる場所で適切に提供される仕組みを構築する必要があります。歯科医師の約9割は歯科診療所に勤務していますが、歯科診療所のうち在宅歯科診療を実施しているものは全体の約2割と未だ低値であるため、在宅歯科診療の提供体制は不十分と言えます。一方、歯科を標榜する病院は病院総数の約2割と低く、入院患者への歯科保健医療サービスの提供体制は脆弱です。このように、歯科医師が勤務する医療機関での業務や歯科保健医療の提供形態に関しては、充足している側面と不足している側面が複雑に絡み合っていることもあり、これまで十分な研究がなされてこなかった。今後の地域歯科保健医療サービスの拡充を図る上で、供給面から、より精緻な調査研究を行う必要があります。
こうした観点から、「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(H28-特別-指定-032)等の厚労科研報告と関連研究を踏まえ、歯科の特性を十分に考慮した上で、歯科医療機関と歯科医師調査を行い、歯科医師の勤務実態を把握するためのタイムスタディ、他職種との連携や今後のキャリアパス、将来の勤務地や業務内容に関する意向等を把握し、歯科医師の勤務実態を明らかにいたします。併せて、タスクシフトが可能な業務についての分析や、歯科医師のキャリアパス分析を含め、今後の歯科保健医療供給体制に資する提言を行うための基礎資料とします。

期待される効果
本研究で得られる結果は、以下に記載する各施策に大きく寄与し、今後の歯科保健医療の供給体制の確保に役立つ基盤的指針を提示することが期待されます。
1.詳細なデータが不足している病院や歯科診療所に勤務する歯科医師の勤務実態を把握することにより、病院中心で議論されている医療従事者の働き方に関して、歯科医療機関に関しても女性歯科医師をはじめとした歯科医療従事者の柔軟な働き方を示すために、「歯科医師の資質向上等に関する検討会」における今後の議論を進めるうえで不可欠な量的データを提示することが可能となります。
2.歯科保健医療サービスの提供体制の偏在状況も含めた、包括的な歯科保健医療の提供体制に関する基礎データを得ることができ、過剰が指摘されている一般歯科診療所の外来における歯科医師の業務の在り方の検討や、不足が指摘されている訪問歯科診療や、病院への歯科医師の配置の推進を含めた、適切な歯科保健医療サービスを提供するための資料として活用することが期待されます。
3.歯科診療所等における在宅歯科診療の実施状況について時間単位での可視化が可能となり、各地域の実情に応じて効果的に地域包括ケアシステムにおける在宅歯科医療を実施するための提言を行うことが可能となります。
4.上記の要素を踏まえた調査研究結果が、「歯科医師の資質向上等に関する検討会」における歯科医師の需給推計の基礎資料となります。